私たちは、いつも「現実を見ている」と思いがちです。
けれど、心の中では自分の信じたい世界を優先して、都合よく事実を歪めてしまうことがあります。
例えば、人の言葉を「きっと悪意があるはず」と決めつけたり、根拠がないのに「この計画なら成功する」と信じ込んだりーーー。
そんな”思い込み込み”が強くなると、現実とのズレが生まれ、人間関係や仕事の判断にも影響していきます。
この記事では、なぜ人は思い込みに支配されるのかを、心理学の観点からやさしく解説します。
自分や他人の「思い込み」と上手に付き合うヒントを見つけてみましょう。
思い込みが現実をゆがめる瞬間
「彼は私のことが嫌いに違いない」「この案なら絶対うまくいく」――
人は誰でも、自分の信じたい世界を根拠にして物事を見ようとします。
心理学ではこれを**「確証バイアス(confirmation bias)」**と呼びます。
自分の考えを裏づける情報ばかりを集め、都合の悪い情報は無意識に無視してしまう現象です。
たとえば、職場で新しい企画を提案したときに「みんな賛成している」と思い込み、
実際には慎重派の意見を聞き流していた――そんな経験はありませんか?
思い込みは“心のフィルター”のようなもので、現実を部分的にしか映さなくなってしまうのです。
こうした状態が続くと、現実とのズレが大きくなり、
「なぜうまくいかないのか」「なぜ理解してもらえないのか」と葛藤が生まれます。
その結果、怒りや被害意識として表れることも少なくありません。
なぜ人は“想像の中の世界”に逃げるのか
では、なぜ人は現実ではなく“想像の中の世界”を選んでしまうのでしょうか?
それは、心が自分を守ろうとしているサインでもあります。
心理学では、理想の自分を思い描く心の働きを「理想自己(ideal self)」と呼びます。
この理想自己と現実の自分とのギャップが大きいと、人は強い不安や無力感を感じやすくなります。
その不快感を避けるために、心は“理想の世界”を現実よりも強く信じるようになります。
たとえば、
• 「自分は評価されているはず」と信じることで自信を保つ
• 「いつか成功する」と思うことで、今の苦しさをやわらげる
こうした思考は、一時的には心を守る大切な働きでもあるのです。
しかし、思い込みが強くなりすぎると、
現実とのギャップを見ないようにしてしまい、現実的な行動の修正が難しくなるという副作用が生まれます。
思い込みをやわらげるための3つの心理的ヒント
①「自分の見方は一つではない」と意識する
心理学者アーロン・ベックは、思考には偏り(認知のゆがみ)があることを指摘しました。
「絶対こうだ」と思ったときこそ、「もしかしたら違う見方もあるかも」と立ち止まることが、冷静な判断を取り戻す第一歩です。
②「事実」と「解釈」を分けて考える
「上司が冷たい」→これは“解釈”です。
“事実”は「上司が挨拶をしなかった」という行動だけ。
感情を交える前に、「今起きている事実だけ」を書き出してみると、
現実をより正確に見つめ直すことができます。
③「安心できる他者の視点」を借りる
人は自分の世界の中で考え続けるほど、視野が狭くなります。
信頼できる人に「これってどう思う?」と聞いてみるだけで、思い込みの糸がほどけることも。
心理カウンセリングやコーチングも、まさにこの“客観的な鏡”の役割を果たしています。
”思い込みが教えてくれる“心のメッセージ”
実は、思い込みが強くなる背景には、
「自分を信じたい」「安心したい」というポジティブな願いが隠れています。
だからこそ、思い込みを「悪いこと」と決めつける必要はありません。
むしろ、「私は今、何を守ろうとしているんだろう?」と自分に問いかけると、
心の奥にある“本当の望み”が見えてくることがあります。
それが見えたとき、人は初めて現実をやさしく受け入れられるようになります。
思い込みを解くことは、現実を否定することではなく、
心と現実を少しずつ近づけていくプロセスなのです。
【まとめ】
思い込みは、私たちが安心して生きるために備えた自然な心の働きです。
けれども、その思い込みが強くなりすぎると、
現実の中での人間関係や選択を誤らせることがあります。
ポイントは、「自分の中の思い込み」に気づくこと。
それだけで、心は少しずつ柔軟になり、他人や現実との距離も穏やかに変わっていきます。

コメント