年齢を重ねるにつれて、以前は意識せずできていたことに、
ふと立ち止まる習慣が増えることがあります。
・集中力が続かない
・体力が追いつかない
・思いどおりにならない
同じやり方なのに、なぜか疲れてしまう。
そんなとき、私たちはつい
「衰えたのかもしれない」
「前よりできなくなった」
と、自分を評価する方向へ気持ちが向きがちです。
けれど心理学の視点から見ると、
この感覚は失敗や後退とは少し違う意味を持っているようにも思えます。
発達課題という考え方
発達心理学では、人の成長を「できることが増えていく過程」
だけで捉えません。
エリク・エリクソンは、人生を通して人は
その時期ごとに向き合う課題(発達課題)を持つと考えました。
それは、
・幼少期
・青年期
・成人期
・老年期
と、年齢に応じて形を変えていきます。
ここで大切なのは、
発達課題は“能力の問題”ではなく、“テーマの変化”
だという点です。
つまり、
同じやり方が「できなくなった」「合わなくなった」と感じるとき、
それは、
取り組むテーマが変わりつつあるサインなのかも知れません。
「できなくなった」のではなく、再編成の時期
発達心理学では、発達を獲得と喪失のバランスとして捉えます。
新しい力を得る一方で、
これまでのやり方を手放す場面も出てくる。
たとえば中年期以降は、
量やスピードよりも、
選択や調整が重要になっていくとされます。
それは決して後退ではなく、
生き方の再編成に近いものです。
「前と同じやり方だと違和感が・・」という感覚は、
次の段階に向けて
やり方を組み替える準備が始まっている状態とも言えそうです。
受容:変えられないものと折り合う力
ここで一度立ち止まりたいのが、受容という視点です。
アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)では、
受容とは、
「状況を良いものとして肯定すること」
ではありません。
そうではなく、
変えられない現実を、否定せずに認めること
とされています。
年齢、体力、環境、役割。
変えられないものに抗い続けるほど、
心理的な消耗は大きくなります。
「前と同じようにはできないかもしれない」
と気づくことは、あきらめではなくて、
現実とつながり直す行為とも言えます。
💡アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)とは?
アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)は、
「つらい気持ちをなくそうとすること」よりも、それがある状態でも
自分にとって大切な方向に行動していくことを大切にする心理療法です。
不安や落ち込み、できなくなったと感じる気持ちを
無理に変えようとするのではなく、
「そう感じている自分がいる」と認めながら、
それでもどんな生き方を選びたいかに目を向けます。
ACTでは、この「認めること(受容)」と
「大切にしたい価値に沿った行動(コミットメント)」の両方が、
心の柔軟さを育てると考えられています。
変化(対処):やり方を変えるという選択
受容は、止まることではありません。
むしろ、変化の出発点になります。
心理学のストレス対処理論では、
対処(コーピング)には
・問題焦点型
・情動焦点型
があるとされます。
💡ストレス対処理論とは?
ストレス対処理論は、人がストレスを感じたときに、
どのように状況や気持ちと関わろうとするかに注目した考え方です。
心理学者のラザルスとフォルクマンは、対処の仕方を大きく二つに分けて
整理しました。
心理学では、問題焦点型と情動焦点型という二つの枠組みで整理されています。
状況そのものに対処:問題焦点型
困りごとの原因や状況そのものに目を向け、
できる工夫を探していく対処の仕方です。
例えば、これまでと同じやり方が難しくなったときに、
手順を変えたり、道具を使ったり、
環境を少し整え直してみることもこれに含まれます。
「前と同じでなくていい」そんな視点を持つことで、
できる形を探し直す余地が生まれることがあります。
気持ちとの付き合い方を整える対処:情動焦点型
状況をすぐに変えることが難しい時に、
その中で生まれる気持ちとの関係を整えていく対処の仕方です。
不安や落ち込み、悔しさを無理に消そうとするのではなく、
「そう感じている自分がいる」と気づき、
少し距離をとりながら見つめていく。
こうした関わり方も、心の負担をやわらげる大切な変化のひとつ
と考えられています。
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これらの対処法は、どちらか一方ではなく行き来していいものです。
状況によって、
・動ける工夫
・動きにくい時は、気持ちを整える
「できなくなった自分を修正する」ためではなく、
今の自分に合う形を探すための対処です。
変えることは、
負でも妥協でもなく、
適応の力と呼ばれるものです。
発達とは、成長し続けることでだけではない
発達心理学の視点に立つと、
人生は一直線に伸びていくものではありません。
広がる時期もあれば、絞られる時期もあります。
足し算の発達から、
引き算や組み替えの発達へ。
前と同じやり方が難しくなったとき、
そこには戸惑いや寂しさが伴うことがあるかも知れません。
けれど、同時に「これまでとは違う選択肢が静かに開き始めているとき」
とも言えるかも知れません。
まとめ
発達とは、何かが失われていく過程というよりも、
これまでのやり方が、今の自分には少し合いにくくなり、
その都度、関わり方を調節していく歩みとも言えます。
その調整を、自分のペースで重ねていくこと自体が、
人生の中で自然に訪れる、次の段階への穏やかな移行なのかも知れませんね。
「今のやり方が合わなくなってきたのかもしれない」
と気づけたなら、それで十分だと思います。
受容と変化は、
静かに、同時に進んでいくものです。
あなたの歩みが、今のあなたに合った形へ、やさしく整えられていきますように🌿
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