仕事をしていると、
「自分がやらなければ回らない」
「ここで手を抜いたら迷惑をかけてしまう」
そんな思いから、いつの間にか多くの責任を抱えてしまうことがあります。
周囲からは「真面目」「頼りになる」と言われる一方で、
心の中では常に気が張っていて、
休んでも疲れが抜けない——
そんな感覚を抱えている人も少なくありません。
心理学では、責任を一人に集中させること自体が、強いストレス要因になると考えられています。
この記事では、心理学の視点から
「責任の分散」がなぜ心を守るのかを、丁寧に説明していきます。
責任を抱え込みやすい人の心理
責任感が強く、慎重な人には、いくつか共通する心理的な特徴があります。
• 物事を自分事として捉えやすい
• 周囲の期待や評価に敏感
• 「失敗=自分の責任」と感じやすい
心理学では、こうした傾向を
「内的統制感が強い状態」と表現します。
内的統制感とは、
「結果は自分の行動次第だ」と感じる心の傾向です。
これは主体性や誠実さにつながる大切な特性ですが、
強くなりすぎると、
起きた問題すべてを
「自分が背負うべきもの」と感じてしまう
という負担を生みやすくなります。
💡内的統制感(Internal Locus of Control)を詳しく
アメリカの心理学者ジュリアン・B・ロッターによって提唱されました。
本文のとおり、
・内的統制感→自分の人生や出来事は、「自分の行動によって左右される」と感じる心の傾向
反対の考えとして、
・外的統制感→運や他人、環境など「自分ではコントロールできないもの」が結果を決めると感じる傾向についても示しました。
心理学が示す「責任の集中」とストレス
社会心理学では、責任の重さと心理的負荷の関係について、古くから研究が行われてきました。
その中で知られているのが、
社会学者である、ジョン・M・ラタネとビブ・ダーリーによって提唱された、
「責任の分散(Diffusion of Responsibility)」という概念です。
これは本来、
「人は集団になると責任を感じにくくなる」という
いわゆる傍観者効果を説明する理論ですが、
裏を返すと、次のことも示しています。
責任が一人に集中すると、
人は強い心理的プレッシャーを感じやすくなる
つまり、
責任を一人で抱え続ける状態は、
人の心にとって自然とは言えないのです。
💡ラタネとダリーの研究
ラタネとダーリーが「責任の分散」「傍観者効果」を研究するきっかけとなったのは、
1964年に起きたジェノベーゼ事件です。
「多くの目撃者がいたにもかかわらず誰も助けなかった」と当時の報道では伝えられ、社会に大きな衝撃を与えました。(後に、当時の報道は、誇張や誤解が含まれていたことがわかっています。)
当時の報道が投げかけた「なぜ誰も行動しなかったのか」という問いが、人の行動を”個人の性格”ではなく”状況の心理”として捉える視点につながったのです。
ラタネとダーリーは、
・なぜ人は、他人がいると行動しなくなるのか
・人の「無関心」ではなく、状況そのものが行動を止めているのではないか
という問いを立て、実験研究をはじめました。
「責任の分散」は無責任ではない
真面目な人ほど、
「責任を分ける=逃げているのでは?」
と不安になるかもしれません。
ですが、臨床心理学や家族療法の分野では、
責任を分けることは、健全な関係を保つために不可欠だと考えられています。
ここで大切なのは、
責任にはいくつかの種類がある、という視点です。
• 行動の責任
• 判断の責任
• 感情の責任
• 結果の責任
これらをすべて一人で引き受けてしまうと、
心は簡単に疲弊してしまいます。
「ここまでは自分の役割」
「これは相手や組織の課題」
そうやって境界線(バウンダリー)を引くことは、
冷たさではなく、心の健康を守るための知恵なのです。
責任の分散がストレスケアになる理由
心理学では、ストレスは
「対処できると感じる範囲」を超えたときに強くなる
とされています。
責任を分散すると、
• 判断を共有できる
• 感情を一人で処理しなくて済む
• 結果への重圧が和らぐ
といった変化が生まれます。
これは仕事の質を下げることではなく、
心のエネルギーを適切に配分することにつながります。
今日からできる、やさしい責任の分散
大きく行動を変える必要はありません。
小さな一歩で十分です。
①他者にも共有する
• 決断の前に誰かに「一度相談する」
• 「確認をお願いします」と言葉にして誰かに渡す
②バウンダリーを確認する
• 「これは私の感情」「これは相手の課題」と心の中で整理する
責任を分散することは、
仕事を軽くするためではなく、
自分を守りながら働き続けるためのセルフケアです。
まとめ
責任感が強いあなたは、
これまできっと、多くの場面で踏ん張ってきたのだと思います。
けれど心理学的に見ても、
一人で抱え続ける責任は、心をすり減らします。
責任を分けることは、逃げではありません。
それは、人の心の仕組みに合った、
長く働くための選択です。
どうか、
あなた自身の心にも、同じだけの配慮を向けてあげてくださいね🌿
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