秋になると気分が沈むのはなぜ?日照時間と心の関係

心理メカニズム

ふと流れてきた秋の歌が、いつもより心に残る。
夕方の空気がひんやりしてきて、なんとなく人恋しくなる。
窓の外が暗くなるのが早くなって、一日が短く感じられる。
近頃そんなことを感じたことはありませんか。

涼しくなって過ごしやすいはずなのに、気持ちがふっと静かになる。その感覚には、ちゃんと理由があります。

この記事では、秋に気分が沈みやすくなる理由を、日照時間と心の関係を中心に、研究をもとにやさしくお伝えします。あわせて、朝の光の浴び方、日焼けが気になる方の工夫、今日からできる小さなワークもご紹介します。
読み終わるころには、「そういうことだったんだ」と、少し安心していただけるはずです。

秋にしんみりするのは、ごく自然なこと

秋の歌が心に残ったり、ひんやりした空気に寂しさを感じたりするのは、あなただけではありません。心理学では、寂しさを感じたときの心の動きが研究されています。

2008年に、中山大学のジョウ(Zhou)とサウサンプトン大学のセディキデス(Sedikides)らの研究チームが発表した研究(Psychological Science誌)があります。4つの研究を通して、寂しさと懐かしさの関係を調べたものです。寂しさを感じると、人から支えられているという感覚は下がりやすくなります。けれど同時に、懐かしい気持ちも高まり、その懐かしさが「人から支えられている」という感覚を高めてくれることが示されました。懐かしさには、寂しさの影響をやわらげる働きがあるのです。

この研究が調べたのは、季節ではなく、寂しさを感じたときの心の動きです。それでも、秋の歌が心に残ったり、ひんやりした空気にしんみりしたりするときにも、似た動きが心の中で起きているのかもしれません。寂しさをきっかけに懐かしさが生まれ、その懐かしさが心を支えてくれる。そう考えると、しんみりする気持ちも、心が自分をいたわろうとする自然な動きの一つと捉えることができます。

そして秋には、心の動きだけでなく、日照時間という体のしくみも関わっています。

日が短くなると、脳の中では何が変わるの?

日照時間と脳の関係を調べた研究があります。オーストラリアのアルフレッド病院などの研究チームの、ランバート(Lambert)氏らが2002年に発表した研究(Lancet誌)です。

この研究では、健康な男性101人の首の静脈(内頚静脈)から血液を採り、その中に含まれるセロトニンの代謝物の量を、天気や季節との関係で調べました。セロトニンは、気持ちの安定に関わる神経伝達物質として知られています。脳から出ていく血液の中の代謝物を調べることで、脳の中でセロトニンが作られ、使われる速さ(代謝回転)を推定できます。

結果は、脳のセロトニンの代謝回転は、冬にもっとも低くなるというものでした。また、脳がセロトニンを作り出す速さは、その時期の日照時間が長いほど速い傾向がありました。

大切なのは、この研究が気分そのものを測ったものではなく、脳内のセロトニンの動きを調べたものだという点です。研究チームは、この結果を、気分の季節による変化の背景に、脳内のセロトニンの変化があるという考えを支えるものと位置づけています。

なお、この研究で代謝回転がもっとも低かったのは冬です。秋は、その冬に向かって日照時間が短くなっていく途中の季節にあたります。

光の情報は「目」から届きます

では、光はどうやって体に伝わるのでしょうか。網膜から体内時計への直接の神経のつながりがあり、目から入った明るさと暗さの情報が、体内時計に伝えられます。さらに、網膜にあるメラノプシンという光受容体が、体内時計の時計合わせに重要な働きをすることも分かっています。

人の体内時計の周期は、24時間よりも少し長いとされています。そのため毎日、光を手がかりにして時計を合わせ直しています。日が短くなる秋は、その手がかりが変わる季節でもあるのです。

秋に感じやすい心と体の変化

秋には、次のような変化を感じる方もいます。もちろん、感じ方は人によってさまざまです。

  • 朝、すっきり起きにくい
  • なんとなく眠い、体が重く感じる
  • 気持ちがのらない、やる気が出にくい
  • 人と会うのが、少し億劫に感じる
  • 夕方になると、ふっと気持ちが静かになる

どれも、季節の変わり目に多くの人が経験することです。「私だけかな」と思わなくて大丈夫です。

日照時間だけじゃない、秋に重なること

秋は、日照時間のほかにも、いろいろなことが重なる季節です。

まず、夏の疲れが出やすい時期です。朝晩の気温差も大きくなって、体が季節に合わせようとがんばっています。

そこに、なんとなく気忙しい空気も加わってきます。

  • 職場や友人とのあいだで、忘年会の話がちらほら出はじめる
  • お正月の準備やおせちの広告を、見かけはじめる
  • カレンダーを見て、「今年もあと少し」とふと気づく

まだ秋なのに、気持ちだけが先に年末へ向かっているような感覚です。そんなふうに感じる方は、たくさんいらっしゃいます。

ですから、気分が静かになる理由は、ひとつではないかもしれません。日照時間、夏の疲れ、朝晩の気温差、年末が近づく気忙しさ。そのいくつかが、少しずつ重なっている可能性がありそうです。

日照時間を味方にするために

光が味方になる理由

先ほどお伝えしたように、体内時計は目から入る光を手がかりに、毎日の時計合わせをしています。朝の光は、その大切な合図になります。日照時間が短い季節こそ、光を意識して取り入れることが、体のリズムを整える助けになると考えられます。

どれくらい浴びるといいの?

ノースウェスタン大学のリード(Reid)氏らの2014年の研究(PLOS ONE誌、責任著者:ジー〔Zee〕氏)があります。成人54人に、手首につける装置で7日間の光の量を測ってもらい、500ルクス以上の明るい光を浴びる時間帯と、体格指数(BMI)の関係を調べた研究です。その結果、明るい光を浴びる時間帯が遅い人ほどBMIが高い傾向があり、睡眠のタイミングなどを考慮しても、その関連は残りました。

この研究が調べたのは、光を浴びる時間帯と体重の関係です。気分そのものを調べた研究ではありません。それでも、光を浴びる時間帯が、体のリズムと深く関わっていることを示す一例といえます。

日本経済新聞の記事では、体内時計を整えるために、午前8時から正午のあいだに、なるべく明るい光を20〜30分浴びることが勧められています。曇りの日でも、屋外の光は1,000ルクス以上の明るさがあるとされています。これは研究の結論ではなく、記事の中で紹介されている推奨です。

目から?肌から?日焼けが気になる方へ

体内時計に光の情報を伝えているのは、目の網膜です。ですから、肌を焼くことが目的ではありません。

日焼けが気になる方は、日焼け止めを塗ったり、帽子や日傘を使ったりして肌を守りながら、朝の屋外の明るさを目で感じる時間をつくってみてください。濃い色のサングラスは、目に入る光を減らします。まぶしいときは無理をしないこと、絶対に太陽を直接見ないようにしてください。

【コラム】ルクスってどれくらいの明るさ?
「ルクス」は、光の明るさを表す単位です。ふだんの生活では使わない言葉なので、身近な明るさと比べてみます。

・晴れた日の屋外(直射日光):約10万ルクス
・曇りの日の屋外:1万〜3万ルクスほど
・明るいオフィスや店内:500〜1,000ルクスほど
・リビングなど、ふだんの室内:100〜500ルクスほど

こうして比べてみると、曇りの日でも、屋外は室内よりずっと明るいことが分かります。「今日は曇りだから」と気にせず、外に出るだけで、体内時計への合図にはなりそうです。

今日からの小さな習慣

  • 朝、カーテンを開けて、部屋に光を入れる
  • 玄関先やベランダに出て、朝の空気を吸う
  • お昼に少し外へ出る(買い物や散歩のついででもOK)
  • 起きる時間をなるべくそろえて、毎日の時計合わせをしやすくする

全部やらなくて大丈夫です。ひとつだけでも、十分な一歩です。

とはいえ、習慣を始めてみても、「なぜかこうなってしまう」と感じる瞬間もあるかもしれません。そんな「あるある」な場面にも、実はちゃんと理由があります。

「あるある」には、理由があります

暗くなった帰り道で、ふっと元気が抜ける

会社帰りのAさんは、まだ6時前なのに真っ暗な帰り道を歩きながら、「なんだか急に力が抜けた」と感じます。

体内時計は、光と暗さの移り変わりを手がかりに、1日のリズムを合わせています。日没が早まる秋は、その手がかりが変わる季節。帰り道が暗くなると、体が「もう夜」というモードに入りやすく、ふっと力が抜けることもあると考えられます。

そこに、空の色や空気のひんやり感が重なると、最初にお話しした「しんみり」した気持ちが生まれます。あの懐かしさの動きです。力が抜けるのも、しんみりするのも、心と体が季節に合わせて動いている自然な反応です。

休日に予定を入れる気力が出ない

友人から週末のお誘いをもらったのに、返事をのばしのばしにしてしまった。「行けば楽しいはず。でも、今は動く元気がない」。

認知行動療法などで使われる「行動活性化」という考え方では、活動が減ると、気分を支えてくれる楽しい出来事や、やり遂げた実感も減りやすく、さらに動きにくくなる循環が起きると考えます。

だから、「気力が出てから動こう」と待たなくて大丈夫です。順番を逆にして、小さく動いてみる。その動きが、あとから気力を連れてきてくれることがあります。次のワークが、そのお手伝いになります。

自分でできる小さなワーク

ここでは、気持ちを整えるための小さなワークを3つご紹介します。全部やる必要はありません。気になったものから、ゆるく試してみてください。

ワーク1:光と気分の3行メモ

1日の終わりに、次の3行を書きます。

  1. 今日、朝の光を浴びられたか(○、△、Xなどで簡単に)
  2. 今日の気分(10段階のどのあたりか)
  3. ひとこと

1〜2週間続けると、「光を浴びた日は、なんとなく気持ちが楽」といった自分のパターンが見えてくるかもしれません。答えを出すためではなく、自分を知るためのメモです。

ワーク2:5分でできる小さな楽しみリスト

好きな飲み物を丁寧にいれる、好きな音楽を1曲聴く、ベランダに出て空を見る。5分でできることを3つ書き出し、今日はそのうち1つだけやってみます。先ほどの「小さく動いてみる」を、無理なく始めるためのワークです。

ワーク3:今日のよかったこと3つ

寝る前に、今日あった「よかったこと」を3つ書き、なぜそれが起きたのかも一言添えます。「ごはんがおいしかった」「空がきれいだった」など、小さなことで十分です。

【コラム】このワークの裏付け
セリグマン(Seligman)氏らの2005年の研究(American Psychologist誌)では、5つの方法とプラセボ(対照群)を比べました。
「3つのよいこと」を含む2つの方法は、実施後1か月の時点から効果が見え始め、幸福感を高め、気分の落ち込みを測る指標を下げる効果が、6か月後まで続きました。インターネットを通じて参加を募った研究です。
後の研究では、効果は少し高まったあと、やや弱まる形で続いたという報告もあり、効果には個人差があります。「合いそうなら続けてみる」くらいの気持ちで大丈夫です。

もし、沈んだ気持ちが長く続くときは

沈んだ気持ちや、好きなことが楽しめない状態が2週間以上続くとき、眠れない・眠りすぎる・食欲が変わるといった変化が重なるとき、家事や仕事がいつも通りにできないと感じるときは、ひとりで抱え込まず、かかりつけ医や心療内科、精神科に相談してみてくださいね。

厚生労働省の情報サイトでも、気分の落ち込みや興味の喪失を含む複数の症状が2週間以上続く場合は、専門家への相談が勧められています。毎年同じ季節に繰り返す場合は、そのことも伝えると診察の助けになります。

気持ちがとても重いときは、期間を待たずに、早めに相談してください。相談することは、がんばりすぎないための、ひとつの選択です。

まとめ

秋に気分が沈みやすくなるのには、ちゃんと理由がありました。

  • 寂しさを感じたとき、人は懐かしさに向かい、その懐かしさが心を支えてくれる
  • 日照時間が短くなると、気持ちの安定に関わる脳内のセロトニンの動きも、ゆっくりになりやすい
  • 体内時計は目から入る光を手がかりに、毎日の時計合わせをしている
  • 日焼けが気になる方も、肌を守りながら、朝の明るさを目で感じることができる
  • 暗い帰り道や、億劫な気持ちにも、理由がある

秋の歌が心に残るのも、ひんやりした空気にしんみりするのも、あなたの心と体が季節に合わせて、やさしく動いている証ではなく、ごく自然な反応です。無理に元気を出そうとしなくて大丈夫。朝、カーテンを開けるだけの日があってもいいのです。

日が短くなる季節も、ゆっくり過ごしていれば、また光が戻ってきます。
あなたのペースで、この秋を過ごしてくださいね🌿

【出典・参考文献】

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