「使ってみたいけど、なんとなく怖い」
職場で、家庭で、あるいはSNSでも
AIという言葉を聞かない日がないくらい日常に浸透してきています。
「プロンプトを入力するだけで文章が書ける」
「画像も、企画書も、コードも作れる」
そう聞いても、どこか遠い話のように感じる人もいるのではないでしょうか。
「自分には関係ない」「使いこなせる気がしない」「なんとなく信用できない」
その気持ち、心理学的には、とても自然な反応なのです。
この記事では、未知のものに対する心の反応について書いていきたいと思います。
世界の半数が「AIに不安を感じている」
イプソス社が31カ国を対象に行ったグローバル調査では、AIを利用した製品やサービスに不安を感じている人が約52%にのぼり、前回調査より平均12ポイント増加していることが明らかになりました。
「AIに期待している」という人も同じく約54%いる一方で、ほぼ同数が不安も抱えている。
つまり、期待と不安は共存しているのです。
「怖い」「まだ信用できない」という気持ちは、実は少数派ではないのです。
なぜ、未知のものには距離を置きたくなるのか
人が新しいテクノロジーに距離を置こうとするとき、そこにはいくつかの心理メカニズムが働いています。
① 「見えないものへの慎重さ」
自動車や家電のような「実体」を持つテクノロジーは、その全容が目に見えやすい分、リスクが比較的わかりやすいです。
しかしソフトウェアは情報という抽象的な世界の中にあり、直感的に捉えにくく、実世界にどんな影響をもたらすかを推測するのが容易ではありません。
「よくわからない」ことへの慎重さは、脳にとって合理的な自己防衛なのです。
わからないものに一歩立ち止まろうとするのは、進化の過程で身につけた安全装置とも言えます。
② 「アルゴリズム転移」という心理
人は、AIが思うように動かなかったとき、人間の場合よりも強く反応する傾向があります。
AIがうまく動かなかった体験が、「AIは全部ダメだ」という印象につながりやすく、
ある場面でうまくいった「やり方(思考の手順)」を、別の場面にも無意識に当てはめてしまう
現象です。これを心理学では「アルゴリズム転移」と呼ぶことがあります。
一度「AIって難しそう」と感じた体験が、すべてのAIへの距離感につながりやすい。
これは個人の思い込みではなく、人間の脳の働きなのです。
③ 「自分らしさを守りたい」という感覚
AIの活躍に関する情報に触れると、私たちは自分ならではの良さや人間特有の価値をより強く意識するようになることがあります。
こうした心の動きを、一部では「AI効果」と呼ぶこともあるようですが、まだ学術的に定着した用語ではないようです。(「AI効果」については、今後の研究に注目したいと思います)
「AIに仕事を奪われるかもしれない」という不安も、この流れの中にあります。自分の存在意義を守ろうとする、ごく自然な心の動きです。
「使っていることを言えない」という別の悩み
AIへの距離感は、使わない側だけの話ではありません。
実はすでにAIを活用している人のなかにも、「それを公言することをためらっている」という声は少なくありません。「ズルいと思われそう」「自分の力じゃないと言われそう」「評価が変わるかも」——そういった不安です。
新しいことを取り入れようとするとき、周囲の視線がふと気になって、一歩引いてしまうことがあります。心理学では、こうした動きに同調圧力や社会的評価への意識が関わっていると考えられています。「周りが使っていないから、言い出しにくい」という空気が生まれやすい場所では、心理的安全性がまだ十分に育まれていないのかもしれません。
AIとの「距離感」は、愛着理論でも説明できる
ひとつ、興味深い調査をご紹介します。早稲田大学の楊帆助手・小塩真司教授らの研究チームが中国の若者361人を対象に行った調査では、AIとのやり取りにおいても、人との関係と似たような傾向が見られたといいます。「感情的な反応を求める気持ち」と「距離をとりたい気持ち」——その両方が、AIに対しても生まれうるというのです。
これは愛着理論の枠組みから考えることができます。
人は幼いころから、安心できる存在との距離をどう保つかを、関係の中で少しずつ学んでいきます。その「近づきたい・でも慎重でいたい」という揺れが、AIに対しても起きてくるのかもしれませんね。
「便利そうだけど、依存したくない」
「助けてほしいけど、信頼していいかわからない」
AIへの複雑な感情は、まるで新しい人間関係を始めるときの気持ちに似ているように思えます。
まとめーAIとの距離感は、今まさに動いている
「AIを使っている人」と「まだ使っていない人」——その境界線は、実はとても曖昧です。
総務省の令和7年版情報通信白書によると、日本における生成AIの個人利用経験率は2024年度時点で26.7%。前年(約9.1%)から約3倍に増えたとはいえ、まだ4人に3人は「使ったことがない」という状況です。
使わない理由として多く挙がるのは、「自分の生活や業務に必要ない」に次いで「使い方がわからない」というものでした。「怖いから」でも「嫌いだから」でもなく、ただ「よくわからない」
そういう人が、まだたくさんいるのです。
一方で、使い始めた人の多くが「使ってみたら思っていたより簡単だった」と感じているといいます。入り口のハードルが高く見えるだけで、一歩踏み込んでみると「なんだ、こんな感じか」と肩の力が抜けることも多いようです。
心理的安全性の研究が示すように、人が新しいことに踏み出しやすくなるのは、「試してみてもいい」という感覚が生まれたときです。そんなふうに思えたとき、AIとの距離はゆっくりと縮まっていくのかもしれませんね。
最後に、ひとつお伝えしたいのは、「AIのことを考えてみようとしている」その時間そのものが、すでにポジティブな一歩だということ。
知ろうとすること、自分なりの距離感を探ろうとすること——それは、変化の多い時代を自分らしく生きようとしている向上心なのだと思います。
変化の多い時代の中でも、どうかあなたの心が、安心できる場所から世界を眺めていられますように🌿
参考文献
- 楊帆・小塩真司ら(2025). Using attachment theory to conceptualize and measure the experiences in human-AI. Current Psychology.(早稲田大学プレスリリース, 2025年5月)
- Ipsos(2023). AI is making the world more nervous. グローバル調査レポート.
- ビジネスリサーチラボ(2024). AIと人間らしさ:AIのもたらす心理的影響とは.
- 総務省(2025). 令和7年版 情報通信白書「個人におけるAI利用の現状」
- パーソル総合研究所(2026). 生成AIとはたらき方に関する実態調査
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