職場で、こんなことを感じたことはありませんか?
「なんであの人だけいつも責められるんだろう」
「なぜか一人だけ浮いてしまっている人がいる」
「自分が何かするたびに、やたら目をつけられる気がする……」
そこには、個人の「性格の問題」ではなく、集団の中で起こる心理的なメカニズムが働いている
ことがあります。
それが、心理学でいうスケープゴート現象です。
今回は、この現象が職場でどのように生まれ、何が起きているのかを、心理学の知見をもとに
やさしく解説していきます。
スケープゴートとは何か?
「スケープゴート(scapegoat)」という言葉は、旧約聖書の『レビ記』にその起源があります。かつて人々の罪を背負わされ、荒野へと放たれた一頭の山羊——その「身代わり」の概念が、
現代心理学の用語として引き継がれました。
現代における心理学的な定義では、集団の不安やストレス、不満を、特定の一人に向けることで、集団内の均衡を保とうとする現象を指します。
つまり、問題の本質から目をそらすために、誰か一人が「悪役」に仕立て上げられてしまう
——そういった構造です。
参考:釘原直樹(大阪大学大学院教授)『スケープゴーティング──誰が、なぜやり玉に挙げられるのか』有斐閣(2014年)
なぜ職場でスケープゴートが生まれるのか?
フラストレーションの「はけ口」を求める心理
職場では、ノルマ・人間関係・長時間労働など、さまざまなストレスが積み重なります。
そのフラストレーションが高まると、人は「誰かのせい」にすることで心の安定を取り戻そうと
します。
これは心理学でいう**転位(displacement)**と呼ばれる防衛機制のひとつで、
怒りや不満の矛先を、本来の原因ではなく「安全な対象」へ向けてしまう心の動きです。
「共通の敵」が集団をまとめる
少し残酷な話ですが、集団は「共通の敵」を持つことで一体感を高めやすくなります。
社会心理学の研究では、スケープゴートとなる対象が存在することで、
集団内の結束が強まることが繰り返し示されています。
つまり、誰かを攻撃することで、残りのメンバーは「自分たちは同じ側だ」という感覚を
確かめているとも言えます。
「異質な存在」が標的になりやすい
スケープゴートの対象になりやすいのは、多数者から嫌悪感を持たれやすい異質な存在や、
攻撃しても安全と見なされる立場の弱い人であることが指摘されています。
職場でいえば、「少し違うタイプ」「意見を言いにくい立場」「新しく入ってきた人」などが、
ターゲットになりやすい傾向があります。
これは、その人に問題があるのではなく、集団がそのような仕組みをつくり出しているということです。
スケープゴートにされると、どんな影響があるのか?
スケープゴートの立場に置かれると、心理的なダメージは決して軽くありません。
臨床心理学的な研究では、以下のような影響が報告されています。
① 自己価値の低下
「自分が責められるのは、自分がダメだからだ」という歪んだ認知が形成され、
自己肯定感が著しく低下することがあります。
② 深い孤立感
職場という社会的な場から排除されることで、所属感を失い、
実存的な孤独感を抱えるようになることがあります。
③ アイデンティティへの影響
スケープゴートの役割を「自分らしさ」として引き受けてしまうことがあります。
「私はいつも責められる側の人間だ」という思い込みが、気づかないうちに
定着してしまうことも。
参考:CiNii「スケープゴートに関する臨床心理学的一考察」(2004年)
もしあなた自身が「いつも自分だけ責められる気がする」と感じているなら、
それはあなたのせいではないかもしれません。
その感覚は、集団の構造がつくり出しているものである可能性があります。
自分を守るために——できることを考える
スケープゴートの構造を変えることは、一個人の力では難しいこともあります。
それでも、自分を守るためにできることはあります。
まず「現象を知る」こと
「これはスケープゴーティングだ」と名前をつけるだけで、少し楽になれることがあります。
「自分が悪い」ではなく「集団の構造がこうなっている」と俯瞰できると、自分を責める気持ちが和らぎます。
信頼できる人に話す
職場の外に、話を聞いてくれる人を持つことが大切です。
カウンセラーや産業医、信頼できる友人など、「あなたの側にいる人」の存在が、心の緩衝材に
なります。
記録を残す
どんな言動があったか、いつ・誰に・何をされたかを記録しておくことは、
もしものときの備えになります。
メモアプリや日記でも構いません。
「離れる」も選択肢のひとつ
その職場の構造が変わる見込みがないなら、環境を変えることを考えてもいいのです。
「逃げる」ではなく、「自分を守る」という選択です。
まとめ
スケープゴート現象が起きているとき、責められているのはその人の「人間性」ではありません。
集団がストレスを抱え、その出口を誰か一人に向けてしまっている・・・
そういう集団のゆがみが、そこにあるのです。
あなたがどんなに傷ついても、それはあなたの弱さではありません。
誰かの不満の「はけ口」にされるほど、価値の低い人間なんていないのです。
もし今、職場で孤立感や理不尽さを感じているなら、ひとつだけ覚えておいてほしいことが
あります。
あなたは、悪くない。
この言葉が、傷ついたあなたへ少しでも届きますように🌿
参考文献・出典
- 釘原直樹『スケープゴーティング──誰が、なぜやり玉に挙げられるのか』有斐閣(2014年)
- CiNii Research「スケープゴートに関する臨床心理学的一考察」(2004年)
- Synodos「人はなぜスケープゴートを作り出すのか?」釘原直樹(2016年)
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