希望は待つものじゃなく、育てるもの。心理学が解き明かす“希望理論”とは

心理学用語解説

頑張りたい気持ちはあるのに、なぜか前を向けない。そんな瞬間が、誰にでもあるのではないでしょうか。

SNSを開けば、前向きな言葉や輝かしい毎日を発信している方をたくさん目にします。
そうした姿に励まされることもある一方で、「自分にはあんなふうに頑張れない」「理想と今の自分との差に、少ししんどさを感じてしまう」と、心がふっと重くなる瞬間もあるかもしれません。

それでも、多くの方が、自分なりのペースで、自分なりのやり方で、日々を大切に積み重ねていらっしゃるのだと思います。その「自分なりに、こつこつと」という姿勢こそが、実は心理学で語られる「希望」の本質に近いものだといわれています。

今日は、そんな「希望」という言葉を心理学の視点から丁寧にひもといていく「希望理論」についてご紹介します。

希望理論とは何か

希望理論(Hope Theory)は、アメリカの心理学者チャールズ・R・スナイダー(Charles R. Snyder)氏らによって、1991年に提唱されました。カンザス大学で研究を重ねたスナイダー氏らは、それまで漠然と語られてきた「希望」という概念を、心理学的に測定・分析できるものとして整理し直しました。

スナイダー氏らの定義によれば、希望とは「目標を達成するための思考のプロセス」であるといわれています。つまり希望は、ただ「うまくいくといいな」と願う気持ちではなく、目標に向かって考え、動いていく力そのものだと捉えられているのです。

希望理論は、スナイダー氏らのチームによって1991年に発表された研究です。それまで漠然と語られてきた「希望」という概念を、心理学的に検証できる形で捉え直した点が、大きな特徴だといわれています。

研究では、目標に向かう人の思考を「意志思考」と「経路思考」という2つの要素に分けて分析し、この2つが組み合わさることで希望という心理状態が生まれると考えられています。また、希望は単なる一時的な気分ではなく、比較的安定した個人の傾向として測定できることも示されているとされています。

希望を形づくる3つの要素

スナイダー氏らの理論では、希望は主に3つの要素から構成されているとされています。それぞれを、一つひとつ丁寧に見ていきましょう。

① 目標(Goals)

希望のはじまりは、自分にとって意味のある目標を持つことだといわれています。目標は、大きなものである必要はありません。「今週中に資料を仕上げる」「来月までに新しい記事を1本書き上げる」など、自分にとって価値を感じられるものであれば、それが希望の土台になっていきます。

② 経路思考(Pathways Thinking)

経路思考とは、目標にたどり着くための道筋を、自分の中で思い描く力のことです。一つの方法がうまくいかなかったとしても、「それなら、こういうやり方もある」と別の道を考えられる柔軟さが、この経路思考にあたります。スナイダー氏らの研究では、希望の高い人ほど、目標達成のための道筋を複数思い描く傾向があると報告されています。

③ 意志思考(Agency Thinking)

意志思考とは、「自分にはこの道を進んでいく力がある」と信じる気持ちのことです。これは自信そのものというより、「進み続けていける」という、いわば内側からのエネルギーのようなものだといわれています。経路思考が「地図を描く力」だとすれば、意志思考は「その地図を頼りに、実際に足を踏み出す力」と表現できるかもしれません。

この3つ、目標・経路思考・意志思考が組み合わさることで、希望という力が形づくられていくと、スナイダー氏らは説明しています。

楽観主義とは、少し違うもの

「希望」と聞くと、ポジティブ心理学の創始者として知られるマーティン・セリグマン(Martin Seligman)氏が提唱した「楽観主義(Optimism)」を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。
両者は近い概念ではありますが、少しニュアンスが異なるといわれています。

楽観主義が「きっとうまくいくだろう」という結果への期待に重きを置くのに対して、希望理論は「うまくいくための道筋を、自分で見つけていける」という、プロセスへの信頼に重きを置いているとされています。つまり希望理論における希望は、結果を待つ姿勢というよりも、自分自身が道を切り拓いていく感覚に近いものだと言えそうです。

希望理論が教えてくれること

スナイダー氏らや、その後の研究を引き継いだシェイン・ロペス(Shane J. Lopez)氏らの研究では、希望の高さが、困難な状況における粘り強さや、目標達成への取り組み方と関連していることが報告されています。

ここで大切なのは、希望が「生まれ持った性質」としてではなく、後天的に育てていける力として位置づけられている点です。目標の立て方を工夫したり、道筋を考える練習を重ねたりすることで、希望は少しずつ育っていくものだと考えられています。
つまり、今この瞬間に希望を感じにくいと思っていたとしても、それは決してその方の資質や性格の問題ではなく、これから育てていける余地が十分にあるということでもあるのです。

日常の中で、希望を育てていくために

希望理論の考え方は、日々の暮らしの中にも応用できる部分がたくさんあります。ここでは、無理なく取り入れられそうな工夫をいくつかご紹介します。

目標を小さく分解してみる
大きな目標は、それだけで気持ちが重くなってしまうことがあります。「まずはこの一歩だけ」というところまで目標を小さくすることで、経路思考が働きやすくなるといわれています。

道は一つではないと考えてみる
一つの方法がうまくいかなかったときに、「自分には向いていない」と結論づけるのではなく、「別のやり方を探してみよう」と考える習慣を持つことが、希望を支える経路思考のトレーニングにつながるとされています。

小さな達成を、丁寧に振り返る
目標に向かって進めた小さな一歩を振り返る時間を持つことは、意志思考、つまり「自分には進んでいく力がある」という感覚を育てることにつながるといわれています。

誰かに話してみる
自分の目標や道筋を言葉にして誰かと共有することは、考えを整理し、新しい経路を見つけるきっかけになることがあります。

おわりに

希望理論が教えてくれるのは、希望とは待つものではなく、目標を見つめ、道筋を考え、一歩ずつ進んでいく中で、少しずつ育っていく力だということです。

今、思うように前を向けない時期があったとしても、それは希望が失われてしまったということではなく、これから育てていける可能性がまだそこにあるという、心強いサインなのかもしれません。
今日ご紹介した小さな工夫を、どうぞご自身のペースで、できるところから取り入れてみてください。

あなたの毎日に、少しずつ希望の灯がともっていきますように🌿

参考文献

Snyder, C. R., Harris, C., Anderson, J. R., Holleran, S. A., Irving, L. M., Sigmon, S. T., Yoshinobu, L., Gibb, J., Langelle, C., & Harney, P. (1991). The will and the ways: Development and validation of an individual-differences measure of hope. Journal of Personality and Social Psychology, 60(4), 570–585.

Snyder, C. R. (2002). Hope theory: Rainbows in the mind. Psychological Inquiry, 13(4), 249–275.

Seligman, M. E. P. (1998). Learned Optimism: How to Change Your Mind and Your Life. Free Press.

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